ソフロロジー式分娩法とは、出産を生命の誕生から始まる育児のなかのひとつの過程と考えます。赤ちゃんを思うことにより、母性を育み出産にまつわり起こることすべてを前向きに捉える分娩法です。
ソフロロジー式分娩のもっとも際立った特徴は、陣痛の捉え方にあります。陣痛は赤ちゃんと出会うための大切なステップ、そして痛みはエネルギーと考えます。そのように意識が作られると、陣痛の「耐え難い痛み」への恐怖が払拭され、痛みは赤ちゃんと共有する感覚として受け入れることができるようになります。
ソフロロジー式分娩法では、麻酔を用いずに精神を安定させることによって、出産時の陣痛の痛みを和らげることができます。言い換えれば、痛みは恐れにより増幅されるものなので、リラックスして痛みを受け入れる気持ち、そして乗り越えたあとには赤ちゃんとの出会いが待っているという期待感の前では、痛みの感覚はおのずと縮小されます。
妊婦、特に初めての出産に向かう女性は心も体も不安定になりがちです。ソフロロジー式分娩法においては、専用のCDを聞きながら行うイメージトレーニングを重ね心身をリラックスした状態に導きます。そして、赤ちゃんがお腹の中で成長していくイメージや、赤ちゃんとの出会いを思うのです。この心地よさこそが、気持ちを前向きにし、母性を育てていきます。
また、ソフロロジー式分娩法には東洋に古くからあるヨガや禅をリラクゼーションの技法として取り入れているので、日本人にとって受け入れやすいものと言えるでしょう。
人の精神や意識の構造を研究し、心の安定と調和を追及する学問であるソフロロジーは、スペインで発祥し、1972年にフランスで初めて産科に取り入れられました。ソフロロジーの研究を応用し、安定したポジティブな精神状態で出産に臨むソフロロジー式分娩法は、まずヨーロッパに広がっていきます。ソフロロジー式分娩法が日本にもたらされたのは1987年のことです。
日本では伝統的に自然分娩が出産の圧倒的多数を占めています。ソフロロジー式分娩は自然分娩でありながら、イメージトレーニングにより母性を育て、陣痛を含む痛みさえも赤ちゃんと出会うための喜びと捉えます。また、出産時にリラックスできるようなトレーニングを繰り返すので、薬や特別な医療に頼らずに陣痛を緩和できるようになります。それがソフロロジー式分娩が、超痛分娩(痛みを超える出産)といわれる所以です。
ヨガや禅も取り入れられているソフロロジー式分娩法は、発祥のヨーロッパでは「何事もありのままに受け入れる」という思想がなかったため、妊婦にとってまずその理解に時間がかかります。その点、日本人には伝統的にその思考パターンが身についているため、理解に費やす時間がほとんど必要ありません。このため、ヨーロッパから輸入の形そのままではなく、より合理的に日本人にあった形に改良を重ね現在に至っています。
ソフロロジー式分娩が行える病院も徐々に増えており、行っていない病院でも産前の母親教室などでソフロロジーの考え方を取り入れているところもあります。また、使用するイメージトレーニング用のCDや書籍は個人でも購入できますので、独学でもソフロロジー式分娩は可能です。
ソフロロジーは1960年スペインで始まりました。Sophrologyとは「安定、調和」を意味するSos、「精神、意識」を意味するPhren、「研究、学問」を意味するLogoから作られた造語です。人の精神の構造や意識段階を研究し、調和や安定のとれた精神状態を得ることを追及する学問として発達しました。
人間の精神には考えたり認識したりできる意識部分と、自分では意識できない無意識部分があります。この無意識部分は意識できる部分よりも広大で、海上に顔をのぞかせた巨大氷山に似ています。人の行動や思考は、この無意識に大きく支配されています。
ソフロロジー式分娩法ではソフロロジーの考え方を出産を含む育児全般に取り入れています。イメージトレーニングを行うことで母親になることや赤ちゃんとの楽しい生活など、出産に対するプラスのイメージを無意識の中に繰り返し送ることにより、出産という大事業に前向きに取り組んでいけるパワーが内から沸いてくるように仕向けていきます。
ソフロロジーの考え方を応用しているのは産科だけではありません。精神科や循環器科、胃腸科、さらには歯科にも、医療全般に取り入れられているといっても過言ではありません。
人間の心と体は密接につながっていて、心のあり方は健康や生活、ひいては人生全般をも左右します。そのひとつをとっても、「人は如何にして心の平安を手に入れるのか?」というソフロロジーが私達にもたらしてくれるものの大きさは、容易に想像できることです。
ソフロロジー式分娩は誰にでもできます。ソフロロジー式分娩法は出産という一時のためのものではなく、生命誕生の瞬間からお母さんが赤ちゃんを思うことで母性を育てていく過程そのものともいえます。また、日本に導入されて比較的歴史も浅いとはいえ、東洋に古くからあるヨガや禅を取り入れているため日本人には大変親しみやすいものとも言えます。
近くにソフロロジー式分娩を行っている病院がなくても独学で習得できます。医師や助産婦の仕事は出産を見守りお手伝いをする、そして緊急時に備えて待機することだけです。出産はあくまでお母さんと赤ちゃんの2人で行う共同作業です。ソフロロジー式分娩法で用いられるイメージトレーニング用のCDは個人でも入手できますし、解説書も手に入ります。トレーニングはリラックスしてCDを聞くことだけですから自宅でも簡単に行うことができます。
毎日のイメージトレーニングのなかで、赤ちゃんとの一体感が増し、妊娠や出産を前向きに受け入れていこうという気持ちが生まれてきます。自分をネガティブな性格だと思い込んでいるお母さんも心配ありません。ポジティブな思考はトレーニングによって必ず身についてきます。
また、仮にさまざまな要因であらかじめ自然なお産ではなく帝王切開をすることが決まっている場合であっても、ソフロロジー出産法で得られたポジティブシンキングで現実を受け入れ、それを乗り越えて生まれてくる赤ちゃんを限りなく愛しく思えることでしょう。
伝統的な自然分娩を除き、日本で比較的知られている出産方法にラマーズ法や無痛分娩があります。このラマーズ法と無痛分娩はソフロロジー式分娩法とどう違うのでしょうか?
ラマーズ法は、別名精神予防性無痛分娩法といいます。出産のメカニズムを学ぶことで不安を取り除いたり、出産の段階にあった呼吸法と体をリラックスさせる弛暖法とを繰り返し練習することで習得し、陣痛の痛みを緩和することを目指します。「ヒッ、ヒッ、フー」という呼吸法を用い、立会い出産ではお父さんも一緒に呼吸法を行います。
無痛分娩は麻酔を用いて陣痛の痛みを緩和する方法です。麻酔の方法も大きく全身麻酔と局所麻酔に分かれますが、完全な無痛というよりも、赤ちゃんが産道を降りてくる感じや圧迫感は残る程度に抑えられているので、自分で生んだ、という達成感はお母さんに残ります。
一方ソフロロジー式分娩においては、出産を赤ちゃんとの共同作業と捉えているので、陣痛も赤ちゃんに出会うための大切なステップと位置づけます。赤ちゃんとの幸せな生活を迎えるために、痛みもエネルギーとして前向きに受け入れます。呼吸法は、「フー」と長く息を吐くことに集中します。
このようにソフロロジー式分娩法、ラマーズ法、無痛分娩は陣痛の痛みに対する対処の仕方が違っています。その一方、陣痛の痛みへの恐怖や不安を取り除くことで妊婦の体の緊張を解きほぐし、赤ちゃんやお母さんへの体の負担を減らしていく、という方向性は共通しています。
ソフロロジー式分娩にお父さんの立会いは可能です。立会い出産というと、ラマーズ法が有名です。お父さんはお母さんの手を握り一緒に呼吸法を行いつつ出産に参加します。ラマーズ法では、出産はお母さんとお父さんとの共同作業です。
ソフロロジー式分娩においては、出産はあくまでお母さんと赤ちゃんとで乗り越えていくものなので、出産そのものにお父さんの果たす役割はありません。しかし、出産という大事業を成し遂げていく妻と生まれてくる赤ちゃんを見守ることで父性が目覚め、感謝の気持ちやその後の育児への積極的なかかわりを期待できることは、大いにすばらしいことといえます。
また、出産はお母さんだけが経験できる特権でもあるわけです。赤ちゃんとの一体感も長い妊娠期間をともに過ごしてきたお母さんに与えられた幸せな感覚です。しかし、お父さんにとっても、自分の命を受け継いだ赤ちゃんの誕生に立ち会えるということは、喜びであることに間違いありません。家族としての自覚が高まることからいっても、立会い出産は望ましいといえるでしょう。
その一方で、自然な出産は日にちを選べません。また、立ち会いたくても仕事などの都合でできないお父さんや、一人で赤ちゃんを育てていこうというお母さんもいます。ソフロロジー式分娩は、原則的には立会いはなくても何の問題もないと考えます。
現在では父親の立会いは広く行われており、ソフロロジー式分娩においても例外ではありません。希望があれば受け入れる病院がほとんどです。しかし上に述べてきたように、その意味合いはラマーズ法とは大きく異なっているのです。
